【非公式翻訳】極超音速兵器の背景と論点に関する議会報告書(Hypersonic Weapons: Background and Issues for Congress)

本稿は、「極超音速兵器の背景と論点に関する議会報告書(Hypersonic Weapons: Background and Issues for Congress https://fas.org/sgp/crs/weapons/R45811.pdf )」の非公式翻訳です。米合衆国政府の著作物を日本国著作権法第6条3項、ベルヌ条約第5条1項 および日本国政府標準利用規約第2.0版に準拠して翻訳しております。

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サマリー

米国は2000年代初頭以来、「通常弾頭型全地球即時打撃兵器」(Conventional Prompt Global Strike)の一環として極超音速兵器 (マッハ5以上の速度で飛行する機動性ある兵器) の開発を積極的に追い求めてきた。米国は近年、目標に滑空する前にロケットから発射する極超音速滑空体や、高速な吸気式(air-breathing)エンジンを動力源とする極超音速巡航ミサイルの開発に集中して取り組んでいる。アメリカ戦略軍の現司令官であるジョン・ハイテンが述べているように、これらの兵器は「他の戦力が利用できない、アクセス拒否される、望ましくない目標 ―すなわち遠く離れた目標、防御されている目標・かつ/または緊急を要する目標(陸路移動式ミサイルなど)ー に対して即応性があり長射程の攻撃オプションを提供する」ことを可能にするかもしれない。一方で、評論家は極超音速兵器には明確なミッション要件(原文:mission requirements)がなく、米国の軍事力にほとんど貢献せず、抑止には不必要であると主張している。

これまで極超音速兵器の予算は比較的控えめであった。しかし、米国防総省と議会はともに、極超音速兵器システムの開発と早期の配備を追求することに関心を高めている。これは部分的には、ロシアと中国が極超音速兵器技術へ関心を高めているためである。ロシアと中国はいずれも多数の極超音速兵器を計画し、早ければ2020年には核弾頭を搭載しうる極超音速滑空体を配備すると予想されている。中露とは対照的に、米国は現在、核弾頭を搭載して使用する極超音速兵器の検討と開発を行っていない。結果として、米国の極超音速兵器は、核弾頭を使用する中露の極超音速兵器システムよりも高い精度が要求され、開発は技術的に困難になる可能性が高い。

国防総省が2020年度予算に要求している、極超音速関連の研究への全予算は26億ドルで、これには極超音速兵器の防御計画のための1億5740万ドルが含まれている。現在のところ、国防総省(DOD)は極超音速兵器に関するprogram of record(※)が無く、システム・長期資金計画の要求ともに承認していない可能性を示唆している。

(※訳注:program of recordとは防衛装備取得の一連のプロセスのうち、技術開発が終了した段階を意味する用語。https://www.darpa.mil/attachments/(6T4)%20Global%20Nav%20-%20Work%20With%20Us%20-%20For%20Small%20Business%20-%20Resource%20(Approved).pdf を参照。)

実際、(研究エンジニアリング担当国防次官補室に所属する)極超音速兵器に関するアシスタントディレクターであるマイク・ホワイトが述べたように、国防総省はまだ極超音速兵器の取得を決定しておらず、その代わりに、将来的な兵器システムの構想やミッションセット(原文:mission set)の評価を支援するプロトタイプを開発している。

米議会が米国の極超音速兵器計画に関する国防総省の計画を検討する際、極超音速兵器の理論的根拠、予想されるコスト、そして戦略的安定性と軍備管理への影響についての疑問を考慮する可能性がある。考えられる疑問は以下を含む。

  • 極超音速兵器はどのような作戦で使われるのだろうか。極超音速兵器は、これらの将来起こりうる作戦を遂行するための最も費用対効果の高い手段であるか。それらはどのように統合作戦ドクトリンと構想に組み込まれるのか。
  • 極超音速兵器のミッション要件(原文:mission requirements)が明確ではないことを前提にすると、米国議会は、極超音速兵器計画への予算要求をどのように評価すべきだろうか。すなわち極超音速兵器プログラムへの予算要求・実現技術(原文:enabling technologies)・試験インフラへの支援のバランスをどのように評価すべきであるか。極超音速兵器・実現技術(原文:enabling technologies)・極超音速ミサイル防衛オプションの研究を加速させることは、必要かつ技術的に実現可能なのなことだろうか。
  • 極超音速兵器の配備は、戦略的安定性に一体どのような影響を及ぼすのだろうか。
  • 新STARTの拡大・新たな多国間軍備管理協定の交渉・透明性の保証と信頼醸成措置といったリスク軽減措置の必要性はあるか。

イントロダクション

米国は2000年代初頭以来、通常弾頭型全地球即時打撃兵器(Conventional Prompt Global Strike)の一環として極超音速兵器 (マッハ5以上の速度で飛行する機動性ある兵器) の開発を積極的に追い求めてきた。米国は近年、地域紛争で使用する短距離および中距離の極超音速滑空体や、極超音速巡航ミサイルの開発にこうした取組を集中している。これまで極超音速兵器の予算は比較的控えめであった。しかし、米国防総省と議会はともに、極超音速兵器システムの開発と早期の配備を追求することに関心を高めている。これは部分的にはロシアと中国が極超音速兵器技術へ関心を高めたためであり、極超音速飛行体によって戦略的脅威を米国にもたらすことに対して米国がより高い注意を持つようになっている。オープンソースの報告によると、中国とロシアはともに極超音速滑空体の試験に数え切れないほど成功しており、早ければ2020年には両国とも実戦配備するとみられている。

競合相手(訳注:中露)の極超音速兵器が戦略的安定性と米軍の競争上優位性の両方に与える将来的な影響について、専門家の意見は一致していない。それでもなお、現在の研究エンジニアリング担当国防次官補(Under Secretary of Defense for Research and Engineering USD R&E)であるマイケル・グリフィンは、「米国は(中露を)同じ方法(訳注:極超音速兵器)で危機状態に陥らせるシステムを保持していない。なおかつ米国は(中露の)システムへの防御策も保持していない。」と議会に証言している。2019会計年度のジョン・S・マケイン国防権限法(2019会計年度国防権限法、公法.115-232)は、極超音速兵器の開発を加速し、極超音速兵器は研究エンジニアリング担当国防次官補(USD R&E)に研究開発の優先領域として認められているが、米国が2022年までに作戦行動可能なシステムを配備する可能性は低い。しかしながら、ロシアや中国とは対照的に、米国は現在、核弾頭を搭載して使用する極超音速兵器の検討と開発を行っていない。結果として、米国の極超音速兵器は、核弾頭を使用する中露の極超音速兵器システムよりも高い精度が要求され、開発は技術的に困難になる可能性が高い。

極超音速兵器の開発を加速させることに加えて、2019会計年度国防権限法247節は、国防長官に対し国防情報局長官と連携し、機密扱いで(原文:classified)、米国および敵対国の極超音速兵器計画に対して評価を行うよう要求している。この評価は以下の要素を含む。

  1. 極超音速兵器技術に対する米国および敵対国による支出の評価。
  2. 極超音速兵器技術に関する研究の量と質の評価。
  3. 極超音速兵器技術に関する試験インフラと人員の評価。
  4. 米国及び敵対国の極超音速兵器技術の進捗状況の評価。
  5. 極超音速兵器技術(訳注:を利用する兵器)の実戦配備の予定表(原文:timeline)作成。
  6. 敵対国が極超音速兵器技術を利用しようとする目的または意欲の評価。

この報告書は、2019年7月に議会に提出されたが、同様に、2019会計年度国防権限法の1689節では、アメリミサイル防衛局長官に対し、「新たな極超音速兵器の脅威に対処するために、どのようにして極超音速ミサイル防衛を加速させるか」に関する報告書の作成を求めている。これらの報告書の結論は、議会の承認、予算割当、管理に影響を与える可能性がある。当報告書の以下では、米国、ロシア、中国における極超音速兵器計画を概観し、各国の計画とインフラに関する情報を、公開の情報源に基づいて提供する。また、世界の極超音速兵器研究開発の状況についても簡潔に要約する。最後に、米国の極超音速技術計画に対する国防総省の予算要求を検討する際に議会が議論する可能性のある論点を考察する。

背景

極超音速兵器を開発している国はいくつかあるが、実戦部隊(原文:operational military forces)に導入した国はまだない。極超音速兵器は最低マッハ5(音速の5倍)の速度で飛行するものだ。極超音速兵器は主要なカテゴリが2つある。

弾道ミサイルとは異なり、極超音速兵器は弾道軌道に沿って移動せず、目的地に到達するまでの途中で機動飛行することができる。アメリカ戦略軍の現司令官であるジョン・ハイテンが述べているように、これらの兵器は「他の戦力が利用できない、アクセス拒否される、望ましくない目標 ―すなわち遠く離れた目標、防御されている目標・かつ/または緊急を要する目標(陸路移動式ミサイルなど)ー に対して即応性があり長射程の攻撃オプションを提供する」ことを可能にするかもしれない。非核弾頭の極超音速兵器はキネティックエネルギー、すなわち運動エネルギーだけを使って非硬化目標を破壊することができ、地下施設を破壊できる可能性がある。

極超音速兵器は、その速度、機動性、飛行高度の低さから、検知と防御が困難である可能性がある。例えば、陸上配備レーダーは飛行の終盤まで極超音速兵器を検知することができない。図1は、陸上配備レーダーによる検出のタイムラインにおける、弾道ミサイル極超音速滑空体の違いを表現している。

 

図1 陸上からの検知における、弾道ミサイル極超音速兵器の比較。

図1 陸上からの検知における、弾道ミサイルと極超音速兵器の比較

情報源 :2019年4月6日のエコノミスト「マッハ5以上で飛行する滑空飛翔体の出現(https://www.economist.com/science-and-technology/2019/04/06/gliding-missiles-that-fly-faster-than-mach-5-are-coming.)」の画像を元に米国議会調査局が作成。

この検知の遅れは、意思決定者にとっての対応オプションの評価のタイムライン、防衛システムにとっての攻撃兵器を迎撃するタイムラインをともに縮めることになる。つまり、迎撃を試みることができる回数はたった1回しかない可能性がある。

さらに、米国国防省関係者は、陸上および現在の宇宙にあるセンサーのアーキテクチャはいずれも極超音速兵器を検知し追跡するには不十分であると述べており、グリフィン次官補は「極超音速(訳注:極超音速兵器)の目標は、米国が通常は静止軌道で衛星を使って追跡している目標よりも10倍から20倍検知しにくい(原文:dimmer)。」と指摘している。

一部のアナリストは、宇宙ベースのセンサー層が、理論的には将来の極超音速兵器に対する実行可能な防御オプションを提供できると提案している。ここでいうセンサー層は高性能迎撃ミサイルや指向性エネルギー兵器を誘導するために、追跡システムおよび射撃統制システムと統合されたものだ。実際、2019年ミサイル防衛概観(2019 Missile Defense Review)では、「このようなセンサーは宇宙からの広大な可視領域を活用して、極超音速滑空体や極超音速巡航ミサイルを含む高度な脅威の追跡を改善でき、さらに脅威の標的設定(原文:targeting)を向上する可能性がある。」と言及している。

他のアナリストは、広域の対極超音速兵器からの防衛の、費用的な実現性(原文:affordability)、技術的実現可能性、および/または実用性に疑問を呈している。物理学者であり原子力専門家であるジェームズ・アクトンは、「地点防空システム、特にTHAAD(ターミナル段階高高度地域防衛)は、極超音速ミサイルに対処するのに適しているというのは非常にもっともらしく思える(原文:plausibly)。これらのシステムの欠点は、狭い範囲しか防御できないことである。米国本土全体を防衛するには、費用を負担しきれないほど多数のTHAAD高射隊(原文:batteries)が必要になる。」と説明している。さらに、一部のアナリストは、米国の現行の指揮統制アーキテクチャは、「飛来する極超音速兵器の脅威に対応し、無力化するのに十分な速さでデータを処理する」ことは不可能であろうと主張している。

極超音速兵器からの防衛に関するさらなる論考は、この報告書の範囲外である。)

アメリ

国防総省(DOD)は現在、海軍の「通常弾頭型全地球即時打撃兵器」(Conventional Prompt Global Strike)の下で極超音速兵器を開発中である。このプログラムは、硬化した標的や時間制約のある標的を通常弾頭で攻撃する能力を米軍に提供することを目的としている。空軍、陸軍、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)のいくつかのプログラムを通じての開発もまた行っている。これらの開発努力を支持する者は、極超音速兵器は抑止力を強化するとともに、競合国による接近阻止・領域拒否戦略の基礎を形成する高度な防空システムやミサイル防衛システムなどの戦力を打破する力をもたらす可能性があると主張する。この認識で、2018年国防戦略(National Defense Strategy)は、極超音速兵器を(米国が)将来の戦争を戦い、そして勝利することを可能にするための鍵となる技術の一つとして扱っている。

計画

中国やロシアとは異なり、米国は現在、核弾頭を搭載する極超音速兵器を開発していない。その結果、米国の極超音速兵器はより高い精度を必要とし、中国やロシアの核兵器システムよりも技術的に難しいものになる可能性が高い。実際、ある専門家によると、「核爆発の効果のため、核弾頭の滑空体であれば、(通常弾頭の滑空体の場合と比較して)、精度が10倍低い、あるいは100倍低いものでも効果的である」。オープンソースの報道によれば、米国には極超音速攻撃兵器や極超音速技術に関する開発中プログラムが多数存在し、その中には以下が含まれる。(表1参照)

  • 米海軍...「通常弾頭型中距離即時攻撃兵器」(IR CPS)
  • 米陸軍...「陸上配備極超音速ミサイル」(別称「長射程極超音速兵器」)
  • 米空軍…「極超音速通常弾頭攻撃兵器」(HCSW、hacksawと発音する)
  • 米空軍…「AGM-183A空中発射型即応兵器」(ARRW、arrowと発音する)
  • アメリカ国防高等研究計画局…「戦術ブースト滑空体」(TBG)
  • アメリカ国防高等研究計画局…「先進全距離エンジン」(AFRE)
  • アメリカ国防高等研究計画局…「Operational Fires」(OpFires)
  • アメリカ国防高等研究計画局…「極超音速吸気式兵器構想」(HAWC、hawkと発音する)

極超音速兵器のprograms of recordは現在存在しないので、これらのプログラムは運用可能なプロトタイプを製作することを意図している。したがって、米国の極超音速兵器計画の財政支出は、研究、開発、試験、評価での歳出であり調達での歳出ではない。

米海軍

2018年6月に出した覚書の中で、米国国防総省は海軍が各軍種間で使用する共通滑空体の開発を主導すると発表した。共通滑空体は、陸軍によるマッハ6のプロトタイプ弾頭であり、2011年と2017年に試験に成功したAlternate Re-Entry Systemを改良したものである。開発が完了すれば、「初期構想の設計を行ったサンディア国立研究所は、共通滑空体を作る予定である......推進システムは別途開発中である。」

報道によると、海軍の通常弾頭型中距離即時攻撃兵器(IR CPS)は、潜水艦発射推進システムに搭載された共通滑空体と組み合われると予期されている。海軍は、2020年度に通常弾頭型中距離即時攻撃兵器(IR CPS)に5億9300万ドル、今後五年間の将来防衛計画(FYDP)に52億ドルを要求し、その目標は「要素技術と下位要素技術の成熟度、飛行テストで強調されるリスク削減戦略を示す」ことである。海軍は、2020年と2022年に通常弾頭型中距離即時攻撃兵器(IR CPS)の飛行試験の実施、2024年1月までプロトタイプの作成を続けることを計画している。

米陸軍

陸軍の陸上配備型極超音速ミサイル計画は、共通滑空体と2段階の地上発射推進システムを組み合わせると予期されている。このシステムは、1,400マイルの射程を有すること、そして「A2/AD戦力を打破し、敵国の長距離攻撃力を制圧し、その他の高い報復危険性(原文:payoff)あるいは時間的制約のある目標を攻撃できる戦略攻撃兵器システムのプロトタイプを陸軍に提供する」ことを意図している。陸軍は2020年度に2億2800万ドル、将来防衛計画(FYDP)全体で12億ドルの予算を要求している。2023年の陸上配備極超音速ミサイルの飛行試験の実施を計画している。

米空軍

極超音速通常弾頭攻撃兵器(HCSW)は、共通滑空体と、B-52から発射される固形ロケットエンジンGPS誘導されるシステムを組み合わせる予定である。空軍は、2020年度にHCSWに2億9000万ドルを要求している。その目的はコンセプトの実証するプロトタイプ弾頭を開発し「HCSWの取得と製造に関する決定のために情報提供する」ことである。空軍は、2020年度に最終設計検査を完了する予定である。

同様に、空中発射型即応兵器(ARRW)では、最大マッハ20の速度で約575マイルの範囲を飛行することができる空中発射極超音速滑空体のプロトタイプを開発すると予想されている。

ARRWは、技術的問題のために試験が遅れていたにもかかわらず、2019年6月に飛行試験に成功し、2022年度に飛行試験を完了する予定である。空軍はARRWに対して、2020年度に2億8600万ドル、将来防衛計画(FYDP)全体で7億3500万ドルを要求している。HCSWと同様に、ARRWは空軍の極超音速プロトタイプ計画要素(Hypersonics Prototyping Program Element)配下のプロジェクトである。極超音速プロトタイプ計画要素とは、「将来の計画のために…情報に基づいた戦略とリソース決定を行う統率力(を可能とする)」コンセプトの実証を意図するものである。

アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)

DARPAは空軍と協力して、マッハ数7以上の飛行が可能なくさび型の極超音速滑空体である戦術ブースト滑空体(Tactical Boost Glide (TBG))のテストを続けている。

この滑空体は「空中発射され戦術級射程である将来の極超音速推進滑空システムを可能にする技術の開発と実証を目指している。」TBGは「海軍の垂直発射システムとの追跡可能性、互換性、統合も考慮される」。TBGは空軍と海軍の両方に移行される予定だ。DARPAはTBGに対して2020年度予算を1億6200万ドル要求をしている。

報道によれば、DARPAのOperational Fires(OpFires)では、「現代的水準の敵防空網を突破し、一刻を争うような(原文:  critical timesensitive)標的を迅速かつ正確に攻撃する高度な戦術兵器」を可能にする地上発射システムを開発するのにTBG技術を活用しようとしている。DARPAは2020年度にOpFiresに5000万ドルの予算を要求し、プログラムを陸軍に移行しようとしている。

長期的には、DARPAは空軍の支援を得て、極超音速吸気式兵器構想(Hypersonic Air-breathing Weapon Concept (HAWC))の研究を続けている。この構想は、「効果的で、費用的に実現性ある空中発射型極超音速巡航ミサイルを実現するうえで、決定的に重要な技術の開発と実証をしようとしている。」DARPAは、HAWCの開発に対して、1000万ドルの2020年度予算を要求した。報道によれば、DARPAは「先進全距離エンジン」(AFRE)の開発の第一段階の途中である。AFREは再使用可能な航空機でマッハ5以上の飛行を可能にする能力のあるプロトタイプエンジンである。DARPAはAFREに対して2020年度予算を4070万ドル要求しており、プログラムを空軍に移行させようとしている。

 

表1 米国の極超音速兵器計画の概要

タイトル

FY2019(百万ドル)

PB2020(百万ドル)

スケジュール

通常弾頭型中距離即時攻撃兵器(IR CPS)

11.25

593.12

水中発射試験、プロトタイピングを2024年まで継続

陸上配備極超音速ミサイル

0

228

2023年までの飛行試験

極超音速吸気式兵器構想(HAWC)

289.628

290

2020年までの最終設計検査

AGM-183A空中発射型即応兵器(ARRW)

219.23

286

2022年までの飛行試験

戦術ブースト滑空体(TBG)

147

162

2020年までの飛行試験、2020年までの追加試験と飛行試験計画

先進全距離エンジン(AFRE)

51.288

40.741

2020年までの試験

Operational Fires(OpFires)

40

50

2020年までの、統合システムのトレードスタディ、推進システムの最終設計検査、2020年までの初期飛行テスト計画立案

極超音速吸気式兵器構想(HAWC)

14.3

10

2020年までの、飛行テスト完了と最終計画評価

情報源: プログラム情報は米海軍、陸軍、空軍、国防高等研究計画局の2020年度説明参考書(原文:Justification Books)より取得。 https://comptroller.defense.gov/Budget-Materials/ よりアクセス可能。

 

極超音速飛翔体に対する防衛

国防総省は対極超音速兵器能力にも投資しているが、研究エンジニアリング担当国防次官補(USD R&E)であるマイケル・グリフィンは、米国が極超音速兵器に対する防衛能力を持つのは最短でも2020年代半ばになるだろうと述べている。2017年、ミサイル防衛局(MDA)は、2017年度国防権限法(公法114-840)の1687節に準拠して極超音速兵器に対する防衛計画を制定した。2018年9月、ミサイル防衛局は極超音速飛翔体に対する防衛オプションを調査するために21の白書を委託した。この防衛オプションは、迎撃ミサイル、超高速飛翔体、レーザーガン、電子攻撃システムなどである。

マイケル・グリフィン次官補によればミサイル防衛局は宇宙ベースの(低地球軌道)センサー層の提案を評価中であるという。このセンサー層は、理論的には、飛来するミサイルを検知し追跡できる範囲にまで拡大できるが、これは極超音速飛翔体に対する防衛における必須条件であるとマイケル・グリフィン次官補は述べている。ミサイル防衛局は極超音速飛翔体防衛に対して2020年度予算を1億5740万ドル要求した。さらに、国防高等研究計画局は「超長射程の極超音速の脅威を精密に迎撃するために設計された軽量弾頭を支える決定的な要素技術を開発する」Glide Breakerと呼ばれる計画に取り組んでいる。国防高等研究計画局はGlide Breakerに対して2020年度予算を1000万ドル要求した。

インフラ

2013年度国防権限法(公法 .112-239)に基づき国防分析研究所(IDA)に委任された研究および実施した調査によると、米国には、2030年までの防衛システム開発のための極超音速技術の成熟に必要とされる決定的に重要な極超音速技術試験施設と移動可能なアセットを、2014年時点で48個保有していた。これらの専門施設は、極超音速飛行時におこえる特殊な条件(例えば、速度、圧力、熱)をシミュレーションするもので、10個の国防総省による極超音速技術地上試験施設、11個の国防総省による野外試験場(原文open-air ranges)、9個のNASA施設、2個のエネルギー省による施設、5個の産業ないし教育機関の施設などである。国防分析研究所(IDA)は2014年の米国極超音速技術試験・評価インフラの評価において「マッハ8以上の特性を評価するのに必要な飛行時間のために求められる、実物大・時間依存的・空力学的かつ熱負荷的観点を連動した環境を提供できる施設は、米国に現在存在しない。」と言及している。2014年の研究報告が発表されて以来、ノートルダム大学はマッハ6の極超音速技術風洞を開設してきたが、最低でも1つの極超音速技術試験施設を停止してきた。パーデュー大学とノートルダム大学でそれぞれマッハ8とマッハ10の風洞の開発が進行中である。(米国極超音速技術試験に関する資産とその能力のリストについては、Appendixを参照。)

米国はさらに、オーストラリアの王立オーストラリア空軍ウーメラ試験場とノルウェーのアンドーヤロケット発射場を飛行試験に使用している。2019年1月、米海軍はカリフォルニア州チャイナレイクにある発射実験施設を再稼動させる計画を発表したが、それは通常弾頭型即時攻撃兵器(CPS)の、空中発射および水中試験能力を向上させるためだとしている。

ロシア

1980年代からロシアは極超音速兵器の研究を実施してきたが、米国のミサイル防衛が欧州と米国ともに配備されたことや、米国が2001年2月に弾道弾迎撃ミサイル制限条約 (ABM) から脱退したことへの対応として、ロシアは取り組みを加速させた。プーチン大統領はロシアの懸念を次のように説明している。「アメリカは、持続的で、無秩序に弾道弾迎撃ミサイル数を増加している。弾道弾迎撃ミサイルの質を向上し、新しいミサイル発射領域を創出している。もしロシアが何もしなければ、最終的にはロシアの核戦力は完全に無価値になるという結果に終わるだろう。これは、単純にロシアのミサイルすべてが迎撃される可能性があるということだ。」したがって、ロシアは目標に接近するときに起動することが可能である極超音速兵器を、米国のミサイル防衛を突破し戦略的安定性の安定感を回復する確実な手段として求めている。

計画

ロシアは、アヴァンガールトと3M22ツィルコン(ジルコン)という2つの極超音速兵器計画を達成しようとしている。また報道によると、機動式弾頭(原文:maneuvering)の空中発射弾道ミサイルであるKh-47M2 キンジャール(ダガー) を実戦配備している。

アヴァンガールト(図2)は大陸間弾道ミサイル(ICBM)から発射された極超音速滑空体であることから、「実用上 「無制限の」 射程をもつ」とされている。報道によれば、SS-19スティレットICBMの発射に際してアヴァンガールトの試験を行ったようであるが、最終的にはサルマト(サーマット)ICBMから発射する計画であると報じられている。このミサイルは、現在開発中であるが、2021年までに配備される可能性がある。アヴァンガールトはカウンターメジャー(訳注:  ミサイル防衛を妨害する装置)を搭載する特徴があり、報道によると核弾頭を搭載する。2016年に2回、2018年12月に1回の試験に成功し、マッハ20の速度に達したと報道されている。しかし2017年10月の試験は失敗に終わった。2018年の試験後、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アヴァンガールトは2019年に配備されると述べた。しかし米国情報機関の報告によれば2020年以前に実戦配備される可能性は低く、エリック・ペイホン国防総省報道官は「実際の証拠に比べて、成功を大げさにした主張がされている。」と指摘した。

図2(訳注: 省略。原文をご参照ください。)

アヴァンガールトに加えて、ロシアは「ツィルコン」 を開発している。ツィルコンは、海上発射型極超音速巡航ミサイルであり、マッハ6から8の速さで飛行することが可能である。報道によれば、ツィルコンは地上と海上の両方の目標を攻撃する能力がある。米国情報機関の報告によれば、ロシアは直近の2018年12月に実施したツィルコンの試験を成功させており、2023年に実戦配備するという。ロシア系情報筋によると、ツィルコンは約250から600マイルの射程を持ち、アドミラル・ナヒーモフ巡洋艦・ピョートル・ヴェリーキイ巡洋艦、20380型コルベット艦、22350型フリゲート艦、プロジェクト885ヤーセン型潜水艦などのプラットフォームが搭載する、垂直発射システムから発射することができる。

さらにロシアは報道によれば、イスカンデルミサイルを改変した、機動式弾頭搭載の空中発射弾道ミサイル 「キンジャール」 を実戦配備したとされる。米国の情報機関の報告によると、2018年7月というごく最近の時期に、改良型MiG-31戦闘機(NATOコードネーム:フォックスハウンド)からキンジャールを発射する実験に成功し約500マイルの距離にある標的に命中しており、2020年までには実戦投入可能(原文: ready for combat)になると米国の情報機関に予想されている。ロシアは、このミサイルをMiG-31とSu-34長距離戦闘攻撃機の両方に配備する計画である。ロシアはTu-22M3戦略爆撃機(NATOコード名:バックファイア)へのミサイル搭載に取り組んでいるが、動きの遅い爆撃機では 「正しい発射パラメータまで兵器を加速させる」 という難題に直面する可能性がある。

ロシアのメディアは、MiG-31から発射された場合、キンジャールの最高速度はマッハ10、射程最大射程は1,200マイルであると報道している。報道によれば、キンジャールは機動的に飛行する能力があり、地上と海上の両方の目標を攻撃可能で、ひいては核弾頭搭載に適する可能性がある。しかし、キンジャールの性能特性に関するこのような主張は、米国の諜報機関によって公には検証されておらず、多数のアナリストによって懐疑的な目で見られている。

インフラ

ロシアは、ジュコフスキーの中央航空流体力学研究所、ノボシビルスクのフリスティアノヴィチ理論応用力学研究所で極超音速風洞試験を行い、ドンバロフスキー空軍基地、バイコヌール宇宙基地、クーラ試験場で極超音速兵器の試験を行ったと報じられている。

中国

カーネギー・清華グローバル政策センターの特別研究員であるトン・ズォー氏は、「(中国が)極超音速技術の開発を優先するべきとする最も重要な理由は、ますます高度化する米国の軍事技術がもたらす明確な安全保障上の(極超音速兵器を含む)脅威に対抗する必要性があることである、と大多数の専門家が主張している」と述べている。とりわけ、中国がロシアと同様に極超音速兵器を追求するのは、米国の極超音速兵器が、中国の核兵器と支援インフラに対する先制斬首攻撃の実行を可能にするかもしれないという懸念を反映している。その際に米国への報復攻撃を行う中国の能力は、米国のミサイル防衛が配備されていることで、制限される可能性がある。

中国はロシアにおける極超音速兵器技術の進展への関心の高まりを見せており、ロシアが自国のシステムを試験したわずか数日後に、極超音速滑空体(HGV)の飛行試験を実施している。

さらに、2017年1月の報告によると、極超音速兵器に関するオープンソースの中国の論文のうちの半数以上に、ロシアの兵器計画への言及が含まれているという。

このことは、中国が極超音速兵器を地域的な文脈の中でますます検討していることを示している可能性がある。実際一部のアナリストは、接近阻止・領域拒否戦略の裏付けとするために、中国が通常弾頭の極超音速滑空体をDF-21弾道ミサイルやDF-26弾道ミサイルに搭載する可能性があると確信している。報道によれば、中国は極超音速兵器を、核兵器・通常兵器・その両方のどれにするか最終決定を下していない。

計画

中国は、極超音速滑空体を発射するために特別に設計された中距離弾道ミサイルである、DF-17の実験に多数成功してきた。米国の情報アナリストらは、DF-17の射程は約1000マイルから約1500マイルとみている。米国議会の委員会の報告書によると、中国は通常弾頭または核弾頭の極超音速滑空体を搭載するように改良できる大陸間弾道ミサイルであるDF-41大陸間弾道ミサイルも試験してきた。結果として、DF-41の開発は「(中国)ロケット軍の米本土に対する核の脅威を著しく増大させる」と報告書は述べている。

中国は、DF-ZF極超音速滑空体(以前はWU-14と呼ばれていた)を、2014年以降に最低9回以上試験している。報道によれば米国国防筋は以下のように述べている。「DF-ZFは、約1,200マイルの射程を持つことが確認され、さらに飛行中に「極度の機動(原文: extreme maneuvers)」を行う能力をもつ可能性がある。」情報機関からは確認されていないが、一部のアナリストはDF-ZFが早ければ2020年に実戦配備すると考えている。

中国航天空気動力技術研究院 (CAAA)のプレスリリースによると、中国は2018年8月、核能力のある極超音速滑空体のプロトタイプである星空2号の試験に成功した。DF-ZFとは異なり、星空2号は発射後の動力飛行と、自身の衝撃波から引き出した揚力を利用する「ウェーブライダー」である。中国航天空気動力技術研究院によると、星空2号は、マッハ6の最高速度に達し、着弾前に一連の空中機動(原文:  in-flight maneuvers)を行ったという。一部の報道によると星空2号は2025年までに実戦配備される可能性があるという。米国当局はこの計画に対してコメントを拒否した。

インフラ

中国は、極超音速滑空体を専門とする強固な研究開発インフラを保持している。研究エンジニアリング担当国防次官補(USD R&E)であるマイケル・グリフィンは2018年3月、中国が実施してきた極超音速滑空体の試験の回数は米国の20倍であると述べている。2018年9月、中国は3つの極超音速滑空体のモデル(D18-1S, D18-2S, D18-3S)を試験したが、3つのモデルそれぞれが異なる空力学特性を持っている。

アナリストらは、これらの試験が、極超音速を含むさまざまな速度で飛行する兵器の開発を促進するよう設計されている可能性があると考えている。同様に、中国はマッハ6以上の高速エンジン、すなわち「スクラムジェット」である実験機「凌雲(Lingyun)」(図3)を、耐熱部品や極超音速巡航ミサイル技術の研究のために利用している。

図3(訳注: 省略。原文をご参照ください。)

ジェーンズディフェンスウィークリー(訳注:イギリスの軍事情報紙) によると、「中国は極超音速技術の地上実験施設にも多額の投資をしている」。中国航天空気動力技術研究院はFD-02、FD-03、FD-07極超音速風洞を運用しており、それぞれマッハ8、マッハ10、マッハ12の速度に達する能力がある。中国は、マッハ5からマッハ9の速度に達するJF-12極超音速風洞や、マッハ10からマッハ15の速度に達するFD-21極超音速風洞をも運用している。

中国は最大マッハ25の速度に達することが可能な風洞を2020年までに運用可能になると予想されている。中国は酒泉衛星発射センターと太原衛星発射センターで極超音速兵器を試験したことが知られている。

世界の極超音速兵器計画

米国、ロシア、中国は最も進んだ極超音速兵器計画を保有しているが、オーストラリア、インド、フランス、ドイツなど他の多くの国々も極超音速兵器技術を開発している。米国は、2007年から、極超音速技術を開発するために極超音速国際飛行研究実験(Hypersonic International Flight Research Experimentation (HIFiRE))計画でオーストラリアと協力してきた。2017年7月に実施され成功した直近のHIFiREでの試験ではマッハ8極超音速滑空体の飛行動態が研究され、それ以前の試験ではスクラムジェットエンジン技術が研究された。オーストラリアは、世界最大の兵器試験施設の一つであるウーメラ試験場に加えて、極超音速風洞を7つ運用しており、最大マッハ30の速度を試験することができる。

これと似たように、インドはロシアと協力しており、マッハ7の極超音速巡航ミサイルであるブラモス2を共同開発している。ブラモス2は、当初は2017年に配備される予定であったが、新しい報告では計画は著しい遅延に直面しており、現在は初期作戦能力を2025年から2028年の間に獲得する予定となっている。インドは、報道によると、極超音速技術デモ機(Hypersonic Technology Demonstrator Vehicle)計画の一部として極超音速巡航ミサイルの単独開発もしており、マッハ6のスクラムジェットの試験を2019年6月に成功させている。インドは約12個の極超音速風洞を運用しており、最大マッハ13の速度を試験することができる。

フランスもまた、極超音速技術の開発に関してロシアと協力し、契約を結んでいる。フランスは1990年代から極超音速技術の研究に投資してきたが、この技術を兵器化する意向を公表したのはつい最近のことだ。フランスは、V-max(実験的機動弾頭。原文: Experimental Maneuvering Vehicle)計画に基づき超音速ミサイルであるASN4G空対地ミサイルを、2020年までに極超音速飛行ができるよう改修することを計画している。一部のアナリストは、V-max計画はフランスの戦略核兵器としての採用を意図したものであると考えている。

フランスは5つの極超音速風洞を運用しており、最大マッハ21の速度を試験することができる。

ドイツは、2012年に実験用の極超音速滑空体(SHEFEXII)の試験に成功した。しかしながら、報道によると、ドイツはこの計画の資金を引き揚げた可能性がある。報道によると、ドイツの軍事産業(原文: defense contractor)であるDLRは、極超音速体の研究と試験を、EUのATLAS II 計画の一部として継続する。ATLAS II は、マッハ5から6の飛翔体を設計しようとしている。ドイツは3つの極超音速風洞を運用しており、最大マッハ11の速度を試験することができる。

最後に、日本は、琉球諸島の防衛力向上のため、 高速滑空弾(Hyper Velocity Gliding Projectile (HVGP) )を開発している。ジェーンズによると、日本は2019年度に1億2200万ドルの投資を行った。2026年度にはHVGPのブロック1、2033年度にはブロック2を配備する計画である。

日本宇宙航空研究開発機構は3つの極超音速風洞を運用しているが、さらに2つの施設が三菱重工東京大学に存在する。

イラン、イスラエル、韓国などのその他の国は、極超音速での気流および推進システムへの基礎研究を実施したが、現時点では、極超音速兵器能力を獲得しようとはしていないかもしれない。

注釈: 世界の極超音速兵器計画についての追加情報は、リチャード.H. スパイアーほか著「極超音速飛翔体の拡散」を参照。

議会のための論点

年次の承認・予算割当プロセスで国防総省による極超音速兵器計画を議会が審議する際に、議会は多数の疑問を検討する可能性がある。その疑問とは、超音速兵器の論理的根拠、予想されるコスト、戦略的安定性と軍備管理への影響についてのものだ。このセクションでは、これらの質問の一部を概観する。

ミッション要件(原文:mission requirements)

国防総省は多数の極超音速兵器計画に対して資金調達をしているが、そのいずれもrecord of programが成立したものはなく、極超音速兵器の要件または長期資金計画を承認していない可能性があることと示唆している。

実際、極超音速兵器に関するUSD R&E(研究エンジニアリング担当国防次官補室)アシスタントディレクターであるマイク・ホワイトによれば、国防総省極超音速兵器の取得を決定しておらず、むしろ「選択すべき、最も実現性ある包括的な兵器システム構想を特定し、その後に成功と課題に基づく意思決定を行う」ためのプロトタイプを開発している。

米国議会が米国の極超音速兵器計画を監督する際には、国防総省による評価に関わる情報を取得しようとする可能性がある。この国防総省による評価は、極超音速兵器の将来的ミッションセット(原文:mission set)、このミッションセットを実行する代替手段のコスト分析、実現技術に対して実施されたものだ。ここでいう実現技術とは、宇宙ベースセンサーや自律的な指揮統制システムといったもので、これらは極超音速兵器の採用、または対極超音速兵器防衛に必須である可能性がある。

予算割当の論考

極超音速兵器に関するUSD R&E(研究エンジニアリング担当国防次官補室)アシスタントディレクターであるマイク・ホワイトの指摘によると、国防総省は攻撃用兵器のプログラムに高い優先順位を置いているものの、「堅固な防御戦略の取得への道」を決定している。このアプローチは国防総省の2020年度予算要求に反映されている。すなわち、極超音速技術関連の研究に配分した合計26億ドルのうち、対極超音速兵器防衛計画に1億5740万ドルを配分している。一部のアナリストは、対極超音速兵器防衛計画は資金不足であると主張しており、「米ミサイル防衛局による、資金不足にある優先事項リスト(原文: the  Missile Defense Agency’sUnfunded Priorities list)」 に注意を向けている。このリストには、1億800万ドルの「極超音速および弾道兵器の追跡用宇宙センサー」 や、7億2000万ドルの「Hypersonic Defense Acceleration」が含まれている。

こうしたアナリストは、「2020年度予算のペース、水準、資金の割り振りは、宇宙センサーを開発し、近い将来において常時配備するには不十分である。」と述べている。

極超音速兵器のミッション要件が明確に定義されていないことを前提とすると、極超音速兵器計画・実現技術・下支えする試験インフラ・対極超音速ミサイル防衛の間での資金拠出バランスを評価することは、議会にとって難題となる可能性がある。

さらに、2020年度国防総省歳出予算案に係る報告書(下院報告書(原文H.Rept) 116-84)では、米国議会下院歳出委員会 は次のような懸念を指摘した。

極超音速技術研究が急激に成長していることは、個々のシステムがあたかも全く異なるかのように別個に独自開発された システムの乱立という結果に終わる可能性を懸念する。そのようなシステムの乱立が起こると、能力が重複しコストが増加してしまう。」

下院歳出委員会は国防総省に対して次のように勧告した。「『極超音速技術に関する、総合的な科学技術のロードマップの開発と実施』が国防総省の各計画を統合できる」。

同様に、下院軍事委員会は国防総省に対して、「国防総省全体での技術的優先事項(の標準化)のための」統合極超音速技術移管室(Joint Hypersonics Transition Office)の設立を勧告した。(下院報告書(原文H.Rept)116-120を参照。)

戦略的安定性

極超音速兵器の戦略的意味については、アナリストの間で意見が分かれている。一部のアナリストは、戦略的安定性に重大な影響を及ぼす可能性のある2つの要因を特定している。第1の要因は、極超音速兵器が飛行する時間の短さである。飛行時間の短いのと同様に対処するタイムラインが圧縮される。第2の要因は、極超音速兵器の予測不可能な飛行経路である。予測不可能な飛行経路をとることは、極超音速兵器の攻撃目標が何かについて(訳注:防御側が)確信を持てない可能性がある。したがって、紛争の際の誤算または意図しないエスカレーションのリスクを高める可能性がある。このリスクは、核兵器と通常兵器の戦力・施設を同一の場所に配備している国ではさらに悪化する可能性がある。

一部のアナリストは、”弾頭の両義性”の結果として、意図しないエスカレーションが生じる可能性があると主張する。この”弾頭の両義性”とはすなわち、通常弾頭の極超音速兵器と核弾頭の極超音速兵器を区別できないことである。しかし、国連の報告書は以下のように指摘している。「たとえ自国に向けて発射された極超音速滑空体(HGV)が通常兵器であることを知っていたとしてもなお、それほどの兵器は本質的に戦略的(訳注: 兵器)であると(訳注:発射された国家は)みなす可能性がある。その場合、発射した国家の認識にかまうことなく、(訳注:発射された国家は)戦略的対応をとるのが当然だと判断する可能性がある。」

このように、脅威認識とエスカレーションラダーの相違は意図しないエスカレーションを結果的にもたらす可能性がある。このような懸念から、これまで議会は通常弾頭型即時攻撃兵器計画(原文: conventional prompt strike programs)への資金拠出を制限してきた。

他の一部アナリストは極超音速兵器の戦略的影響は最小限であると主張している。国連軍縮研究所のパーベル・ポディグ 上級研究員は「戦略的バランスと軍事力の観点でいえば、大きく変わらない」と指摘している。その理由として、中国・ロシアといった米国の競争相手がすでに米国をICBMで攻撃する能力を保持しており、中露はICBMを一斉射撃する場合アメリカのミサイル防衛を圧倒しうるためである、と一部アナリストは主張している。

これらのアナリストはさらに、極超音速兵器についていえば伝統的な抑止の原則は有効なままであると以下のように指摘する。「外国政府が、米国に対して極超音速兵器を使用すると、(言及ではなく)脅迫しようと考えるまでに自滅的になることは、世界のいかなる外国政府でもあっても極めて想像しにくいことだ…めでたく終わるだろう。(原文: would end well) 」

軍備管理

極超音速兵器が、戦略的安定性への脅威をもたらしたり軍拡競争を誘発したりする可能性があると考える一部のアナリストは、米国はリスクを軽減し極超音速兵器の拡散を抑制する手段を講じるべきだと主張している。新STARTの拡大・新たな多国間軍備管理協定の交渉・透明性の保証と信頼醸成措置の実施などが提案された手段である。

新STARTは米露間の戦略攻撃兵器に関する条約である。現在のところ、新STARTは極超音速滑空体や極超音速巡航ミサイルのような、弾道軌道での飛行するのが全飛行経路のうちの50%未満(※)である兵器をカバーしていない。(※訳注: 新START条約では 弾道軌道での飛行が「most of its flight path」であるミサイルを弾道ミサイルと定義している。https://2009-2017.state.gov/documents/organization/140047.pdf p2 )しかし、同条約の第5条は、「締約国は、新たな種類の戦略攻撃兵器が出現しつつあると認める場合には、二国間協議委員会(BCC)において検討するよう当該戦略攻撃兵器に関する疑義を提起する権利を有する。」と規定している。これに基づき一部の法律専門家は、米国は、極超音速兵器を新STARTでの制限に含めようと交渉する二国間協議委員会(BCC)でこの問題を提起できると考えている。しかしながら、新STARTは2021年に失効するため、2026年まで延長されない限り、この解決策は一時的なものになる可能性が高い。

代替案として、一部のアナリストは、極超音速兵器の試験を一時停止または禁止を制定する新たな国際軍備管理協定の交渉を提案している。このようなアナリストは、試験の禁止は軍拡競争の可能性を防ぎ、戦略的安定性を維持するための「非常に検証可能性の高い」なおかつ「非常に効果的な」手段になると主張する。

他のアナリストは、試験の禁止は実現不可能であると反論している。その理由として「極超音速飛翔体と、他の通常戦力(即応性や射程に劣るもの)の間には明確な技術的差異がなく、(訳注:試験の禁止が)核抑止力を低下させる可能性もある。」と述べ、代替手段として国家間の透明性の保証と信頼醸成措置を提案した。アナリストの提案する措置には、兵器の情報交換・共同技術研究・「試験の事前通知・専用に分離された発射場所からの極超音速飛翔体の発射試験・海上試験の抑制」といったものがある。



Appendix

(省略)

著者情報

ケリー. M. セイラー(Kelley M. Sayle)

先進技術・グローバル安全保障アナリスト

免責事項

(省略)




翻訳部分は以上です。

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